日曜日の静寂

静かに。そして、強く生きていきたい。一口馬主とFXと。

景色~人生の色模様~

物語

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人生の景色は自分の生き方でそれぞれ変わるもの。
その景色は高かろうが低かろうが美しいか汚いか、それすらも人それぞれ。
その人の景色はその人にしか見えない。それがまたはかない景色なのだ。

室内の景色

うちは地域No1なんだ

これが社長の自慢であり目指す企業像だった。
大都建材。これが私の勤める会社だ。
建材メーカーとしてその地域でNo1シェアを誇る会社。
大都アルミはアルミサッシを生産する共栄アルミの下請け工場で、大都建材は創業者一族が独自で作った会社だ。
私が入社した時は大都アルミのほうが規模も大きかったのだが、入社し3年ほどしたときには大都建材のほうが規模が大きくなっていた。

社長に会長、役員が目指しているのは日本で一番大きな建材メーカーだ。
大手メーカーには上場企業がいくつも並ぶ分野だが、大手は寸法があらかじめ決まっている型番品を大量に生産している。
大都建材はすべての建具は実際に設置する箇所の寸法を測りミリ単位で調整した建具一式をすべて制作するメーカーとして独自路線を歩んでいた。
なので、作り置きなどできないため、建築シーズンの春から夏になるとキャパオーバーな注文量が来るため連日深夜残業でこなすという感じの会社だ。

そんな会社で私は工業高校で機械を学んできたことから、会社の工作機械のメンテナンス、保守をやりながら、空いた時間はプレス機を踏む毎日だった。

仲間

高校を卒業して大都建材に入社した私は最年少社員である。
私が入社したころから高卒入社の枠が少なくなっていて、同期の同級生は2人だった。
大卒の同期は6人。
そして、配属は高卒は工場勤め、大卒の男性はまずは工場に2か月務めたのち営業部に配属。女性は最初から事務所で事務仕事という配属だ。
学歴ヒエラルキーに圧倒支配された会社で、社長が個の社員に話しかけるときは、まずはどこの大学卒か聞くような会社だった。高卒工場作業員は社長と話することもないような、そんな会社だ。

私は自分の出身高校に誇りを持っていたことからも、どこかそこら辺のきいたことのない三流大学に行くくらいなら現場で経験を積むほうがよほど人間として成長できると考えていたので、同期の大卒たち、4つも年齢が上だが、物おじせずおかしいことはおかしいといつも言っていた。

今度同期で飲み会しようと思ってんだけど、信三、来るよね?てか、来てくれなきゃ困るんだけど?

2浪して大学に入り1度留年してやっと卒業、そして大都建材に入社した最年長の松岡。
年齢的なところから、同期会の会長に就任したのだ。
最年少の私に、同期会に来てくれと依頼があった。別に何かあるわけじゃなし。喜んで参加するんだが、来てくれなきゃ困るとか、意味が分からん。自分はそんな風に見られているのか?と、ショックを受けたもんだ。
指定された居酒屋に行くと、同期が全員そろってる。と、言ってもそのほとんどが姉や兄といったくらいの年上なんだが。
店に入ると、全員がクラッカーを鳴らす。

お誕生日おめでとう!!

だと。そうか。今週は私の誕生日か。よく調べてるもんだ。
最年少19歳になった私を4つ以上年が離れてる同期たちが受け入れてくれたことが分かった瞬間だった。

そのころは、私は高校を出たばかりの世間知らずだ。
仕事以外で楽しみにしていたのはパチンコと競馬だ。
競馬は近くにある地方競馬場に会社が休みなら朝から行って特別観覧席で1日を過ごす。
そんな生活をしていた。
ある時、月曜日に祝日があり珍しく土曜日も休みで3連休だった時、同期藤沢から連絡が。

信三、今何やってるの?競馬?そしたら家に帰りなよ。とりあえず迎えに行くわ

何のことかわからないがとりあえず帰宅する。
夕方頃迎えに来た。

行くぞ京都!京都競馬場行こうぜ!

と。

藤沢は同期の中で専門学校卒で20歳という同期の中では真ん中の世代だ。
ただ、営業部に配属されて初月から売り上げトップという成績で、入社1年目にして重要な人物とされている人間だ。
すぐに花形の営業所に配属されエリート街道を突っ走る藤沢。私から見ると全く交わることのない部署で出世街道の先頭をひた走っている同期だ。話すこともないと思っていたのだが、ひょんなことから一緒に京都に行くことになった。

それからはことあるごとに藤沢とつるむようになった。
藤沢は、自分のいる営業所に私をよく連れて行った。
終業時刻間際に本社工場にきて私を連れて営業所に行く。
営業所所長などとの飲み会などによく参加させられた。
大都建材は営業部が花形で、営業部所属の社員たちはそれなりに誇りとエリート意識がある。
工場の一作業員など名前も覚えないような高飛車な奴らの集まりだ。
そんな営業部の一番の売り上げを持つ営業所の所長が私のことを認識し、良く誘われるようになった。
営業部がとってきた仕事は工場で製品を作るわけだから、本来は、営業マンは工場の仕事はどういうものなのか、自社工場の生産キャパはどのくらいなのか、クオリティはどうなのかなど把握しないといけないのだが、ここまでそんなことをやっている営業など1人もいなかった。
私の藤沢の個人的な付き合いから、最近は工場の生産力とクオリティを勘案してどんなタイミングでどんな仕事をとってくるのが良いかなんて話が生産部と営業部で話し合われるようになってきた。

サーバントリーダー

入社して丸1年。2年目に突入した私のもとに、本年入社してきた大卒のやつらがやってきた。
大都建材は入社後はまず全員工場で2か月~半年程度必ず働くのだ。
本年入社した大卒は5人。そのうち2人は女性で、一人は生産部の事務、もう一人は社長秘書だそうだ。
社長秘書は新入社員研修後すぐに社長秘書となり社長室の横に机を置いて働き始めた。
生産部の事務の子は、別の部署で半年ほど現場の仕事をして生産部事務所に入った。
ほかの3人は男性で営業部入りが決まっているが、その3人ともが僕のもとに研修に来た。
3つ年上だけど会社では1年後輩という、私からしたら非常に扱いづらい年上の後輩たちだ。
桜井は、この同期の中ではリーダー的な存在。イケメンで面白くてリーダーシップがある。
九重は伏し目がちであまりしゃべらないが、車に命を懸けてる走り屋だ。
伊藤はいわゆる腰巾着的性格なのだが、何か憎めないところもあるタイプだ。
こんな三人の勢いに飲まれたらあかん。これだけは感じていた。
初日に僕は後輩3人に言い放った。

今日から2か月か3か月、俺の仕事手伝ってもらうことになると思うんだけど、あなたたちがここでの仕事が腰かけのつもりなら、何もしなくていいからずっと後ろで見てて。少しでもここに所属することで、自分の正しい部署に行ってなにかの役に立つと思うんなら何でも教えるよ。

高卒の自分より年下のあんちゃんにこんなこと言われてどんな心中だっただろうか。
それでもその3人は一生懸命に仕事を覚えようと頑張ってくれた。
そして、各配属部署へ正式に移籍する日。桜井が。

信三さん。ほんとありがとうございました。
これから僕たちは各々の部署で働きますけど、ここで得た経験は必ず自分の部署の仕事で活きるはずです。いや、活かしてみせます。
僕はこれで、N営業所に行きます。本社から300㎞位離れてるんで盆と正月くらいしかたぶん帰ってきませんけど、お願いします。僕のこと忘れないでください。僕の仕事が流れてきたら頼んます!

なんて言い放って行きやがった。
ほかの二人は本社の営業部と本社の設計部なので、目の前にいるのでそういう感動はないが、みんな違う部署に行くのでさみしさもあり、これから俺たちが頑張っていこうぜっていう一体感なんかを感じながら各々の居場所へ行ったのだ。

ちょっと待てよ。
大卒男性3人で考えてみたら、3人とも俺の下にくるってかなり変だな?
ふつう1人1人に誰か先輩をつけるもんだろおかしいよな。

藤沢がやってきた。

信三。3人どうやった?なかなか活きのいい奴らやろ?お前の下で働かせたら、あいつらもっと輝くかと思って、俺から社長にどうしても信三の下に全員付けてほしいって頼んだんよ

なんだと。そんなところで私の名前を出したのか。
現場の人間の名前なんぞ謎一人も分からないし覚える気もない、社長が、信三の名前だけは覚えたらしい。

融合

信三さん、梶沢所長から電話です~

現場の一作業員に営業部の所長から電話などあろうはずもないのが大都建材。
工場なので呼び出しは大音量のスピーカーだ。
そのスピーカでありえない人物からあり得ない人物の呼び出しが流れるもんだから、生産部長の堀田が出てきた

信三。お前何やった?梶沢所長から直々の電話ってやばいやろ。
内容聞いて報告な?謝罪なら俺と課長も一緒に行くから。

まあそうだ。営業所の所長が工場の一作業員に直接電話なんて碌な話じゃない。
ただ、名指しで指名されて説教垂れられるような仕事、なんかあったかもわからない。

はい。信三ですが。。

おぉ信三君か。藤沢君から聞いてるよ。今度の金曜日、仕事終わってから時間ある?
泊りになるけど、こっちの営業所来ないか?

はぁ。。。時間はありますけど...あの。。部長と課長もつれて行ったほうがいいですか?

あぁ~いらんいらん~部長なんて来なくていいよ堀田部長、面倒くさいし。
藤沢を終業時間に本社におるようにしておくから車のっけてもらって来なねー。なら。

うーん。説教って感じではなさそうだが、なんなんだ。。。

金曜日、17時。就業のベルが鳴る。
いやまて、俺どんな格好で行けばいいんだ。作業服はさすがにまずいだろ。けど、スーツなんて持ってねーぞ。私服でいいか。
なんて考えてると藤沢が営業車で登場。
信三!行くぞ!と、私を連れ出す。

K営業所。藤沢が新入社員時代から配属された営業所だ。
営業売上は本社すらも凌ぐトップを10年守っている営業所だ。
営業部の中では最も花形で出世街道No1の営業所だ。
ここに配属されれば3年で主任・係長、5年で課長。10年もすれば部長・役員というエスカレーターだ。
そんな中の営業トップが藤沢だ。
その藤沢がわざわざ私を迎えに来させるんだから悪い話じゃないだろう。
けどなんで呼ばれたのか、、、まったくわからん。
営業所に到着。
そこには、声しか聞いたことがない梶沢所長がいた。

おお君が信三ちゃんか。藤沢からはよく聞いてるよ。
桜井と九重の指導係やってたんだって?
あいつらちゃんとやってるよ~信三さんに教えてもらったっていつも言ってるわ

うーん。私はそれほどのことは何も教えてないが。教えたのは、建具は寸尺で寸法決めてんだぜとか、何で鴨居と敷居はこんなに精密に寸法を出さなきゃいけないのかとか当たり前のことだけなんだけどな。

僕、そんな褒められるような指導、何もしてないっすけど?梶沢所長に言ってたんですか?
しかも桜井はN営業所でしょ?
別の営業所の梶沢所長に褒められるような立派な指導なんてしてないっすよ~僕まだ20歳っすよ?

いやいや。信三ちゃん。あんたは気づいてないかもしれないけど、あいつらいってたよ。
朝の挨拶は上下関係なく心込めてあいさつしなさいとか、誰かがめでたかったらちゃんと祝ってあげなさいとか。
すごいじゃん。年下なのにそんなこと言える子ってなかなかいないよ?あいつらマジで感謝してたよ

大学まで行ってそんなこともできないのもどうかと思うが、そこは飲み込んだ。とりあえず悪いことではないようだ。
今日はなんで呼ばれたのかまだわからんが、泊りになりそうって言ってたけども。

今日はね。あそこの施設でうちの営業所の飲み会やるんだ。
信三ちゃんもぜひ来てほしいなと思ってな。藤沢に迎えにやらしたわけよ。てことで、行こうぜ

私はその営業所でも藤沢しか知らないのだが...なんだかよくわからないが飲み会に参加することになったようだ。

その施設は一台温浴施設でプールもついている。
その温浴施設で風呂に入って飯を食おうということらしい。
まあそれは良いんだが。私を本社からわざわざ読んでまでやることなのだろうか。

おお信三ちゃん。あんたも誘われたのか!

と、生産部生産一課の課長の野田課長。私と10才ほど年が違う兄貴分だ。
私は三課なので、直接の上司ではないが生産部という意味では同じ所属部の先輩がいてくれて心強い。
もう一人生産部の事務所で働く松任谷さん。野田課長の彼女だ。
生産部から懇親会に人を出すなら適任といった二人だが、なぜ私はこのラインから誘われたわけでもないのにここにいるのか。よくわからない。
ここに、K営業部の営業として、藤沢とあと2人の営業マン、それに所長だ。
梶沢所長からの挨拶。

今日はみんな来てくれてありがとうございます。
ここにいるメンバーは将来大都建材を引っ張っていく人間たちの集まりです。
営業から3人、生産部からは2人、あと、信三君。信三君はいま大都建材の若手のサーバントリーダーです。
生産部員としてではなくサーバントリーダーとして呼びました。
今後も若い従業員のことよろしくね。

なんだそれは。サーバントリーダーってなんだ私はそんな役職を拝命した記憶もないし給料も最低賃金だが。

後で調べてみたらサーバントリーダーとは正式な役職ではなく、組織、グループ、団体ができたときに役職に関係なくリーダーシップを発揮してまとめ上げるような役割を担う人物のことを言うらしい。
工場だと、長年勤めているパートのおばちゃんとか、掃除のおばちゃんとかがそういう立場になっていくことがおおい。
私は若手をまとめ上げてみんなの意識を同じ方向に向かせるような役割を担ったリーダーらしい。

所長。僕にそんな力ないっすよ。なんかの買いかぶりじゃないんですか?
藤沢が何言ったか知らないっすけども、僕まだ20歳っすよ?まだまだ入社してくる奴らより年下なんすよ。そもそもこんな花形営業部の飲み会に参加できるような身分じゃないっすよ。

所長はこう言う。

信三ちゃん何いってんの?
実際すでに引っ張ってるじゃん。桜井に九重。あいつらあんたに心酔してるぞ?
桜井なんて仕事とってくるたびに、これは信三さんに回せる仕事なのか?絡んでもらえるのか?
っていっつも言ってるぞ。
それに同期の松岡だって、この前のソフトボール大会、お前が出るなら俺も出るって言ってきてたんだぜ?
お前すでに十分なリーダーだぞ。もっと自分を知ったほうがいいぞ

ほんとかよ。
まあ確かに、ソフトボール大会の前日夜中に松岡から電話があって、明日ソフトボール大会だから今日一緒に飯行って風呂入ってどっかで遊ぼうって迎えに来たよな。
そのまま同期の女の子も誘って5人で夜通しソフト会場で遊んだな。
桜井はこの前電話があって、あの案件は大型案件になりそうだから現地に着てくんないかとかって言ってたな。
俺がいったって仕事とれるわけじゃねーだろなんて笑ってたけど、あれ本気だったのか。

夏祭り

私はお昼は弁当を頼んでいた。
昔から祖父に早飯早グソも芸のうちやといわれて育った人間なので飯を食べるのは早い。
食堂の一番近くにいるのもあって、ベルが鳴ったらすぐ食堂。食べ終わって出るときに、おばちゃんたちが入ってくる。正味5分くらいで食べてしまう。
13時までの約1時間はトラックの搬入口のシャッターの下で缶コーヒーとたばこでじっくり休憩するのが私のお昼だ。

徐々に気温が暑くなってきた7月。いつも通りシャッターの下でタバコを吸ってると、同期の女の子と、新卒社長秘書の井田さん、そして松任谷さんがやってきた。
普段部署が違いすぎるため話もしない女性陣。わが社の看板娘たちだ。

信三さん。野田課長から聞きました?
ことし、久しぶりに夏祭りをやるらしいんです。一緒にダンスやりませんか?

いったいなぜ私にもってくる?女子たちだけでやればいいんじゃないのか?

え?俺が入ってどうするの?何やるの?

今年はやってるこの歌で、みんなでダンスしようかと思ってるんです。盆踊りは私たち的にはちょっとなんですよぉ
藤沢さんとか桜井さんとかにも声かけてて、そしたら二人とも信三さんがやるならいいよっていうんです。
やりましょうよぉ

って、またあいつらか。なんでそんなに俺なんだよ。

わかりましたよ。じゃあ、やりましょうか。練習しなきゃいけないっすよね。

そうなんです。一応毎日、お昼の休憩時間と土曜の夜にカラオケ屋さんで練習しようと思ってるんです。
なんで、今日今からやりましょうね

と、若い女性のノリに乗せられた格好で今日からダンス練習が始まった。

井田さん。僕の1年後輩で短大卒。年齢は1個上。
同期の女の子が保田さん。名前がトモコさんだから、保田の保とくっついてホモ子って言われてた。
ホモ子は生産部の事務なので、たまに絡む。ホモ子はかわいい、私の好みのタイプだった。
井田さんは、社長秘書らしくおしとやかでしっかりしててどちらかというとかわいいというよりきれいなタイプ。私から見たら高嶺の花タイプ。
私服で一緒にどこか行くことなんてないと思っていたのが思わぬことで毎週末一緒にカラオケ屋さんに行くことになった。
井田さんは目がすごく悪いらしく、夜の車の運転が怖いということで何かあるごとに迎えに行くことになった。
ホモ子は、目は悪いけど別に怖くないってことで自分で車に乗ってきてたけど、寂しいから一緒に連れてってと、本社の駐車場に車を止めて私の車に一緒に乗っていくって感じになった。

あるとき、井田さんが急用でどうしてもいけないということでホモ子と2人になった。
カラオケ店で練習をして、帰るんだけど、なぜかその日も本社に車を止めたうえで一緒にカラオケ店に行ってたから終わって本社まで送っていった。

信三さんって、彼女いるの?こんな毎週土曜日私たちとダンス練習してて彼女、怒んないの?

週末はパチンコと競馬に明け暮れてる二十歳の男に彼女なんぞいるわけもなく。

彼女なんていないよ~ホモ子こそ大丈夫なの?彼氏怒んないの?

私も彼氏なんていないよー。うん。いないよー。。。

まだまだガキだった私には、この会話の真意なんてひとかけらもわからなかった。

遠征

夏祭りは、N営業所で必死に一人で練習した桜井も合流しダンスは大成功に終わった。
桜井は夏祭りのために帰省していて、次の日にはN営業所に帰って行った。

信三さん。来週からのお盆休み、打ち上げやりましょうよ。みんなでN営業所来てくださいよ!

なぜかノリのいい女性陣。勝手に旅行日程を打ち合わせ始めていた。

N営業所は隣の県の営業所なのだが、営業所の場所が県の端っこで、直線距離で約300㎞も離れた場所にある。
高速に乗れば3~4時間で着くとはいえ結構な大旅行だ。
しかし、女性比率が高いこの旅行はぜひ行きたいわけで。20歳のあんちゃんはイキがって車まで出したのだ。
行くメンバーは、藤沢と、野田課長。彼女の松任谷さんにホモ子と井田さん、そしてなぜか僕の2つ先輩で年齢は3つ上の長谷川さんが一緒に行くことに。
長谷川さんは大都建材で一番の美人で、みんなが憧れる高嶺の花だ。
ダンスは参加してなかったが、松任谷さんが何かあるごとに誘う子らしい。そして意外に何にでも付いてくるらしい
私は話もしたことがなければ、高校生の時、就職面接に来た時に面接会場に案内してもらったきれいな人という以外接点がなかったのにいきなり旅行で一緒になることになった。

N営業所に到着。
営業所長にしたら本社生産部の課長やら、事務の女の子やら、噂のサーバントリーダーやらが来るもんで面倒だっただろう。
しかし私たちは私的に遊びに来たつもりだから、意に介していない。
むしろ所長も一緒に飯行きましょうやくらいのノリだ。
若いから焼肉!と意味の分からない論理で焼き肉を腹いっぱい食べて。野田課長が社長にN営業所の視察に行くなんてうそぶいて飲食費を引っ張ってきてたからいいところの焼肉屋で腹いっぱい食べる。

夜は桜井の社宅でみんなで雑魚寝。
長谷川さんと雑魚寝なんて夢のような、ありえない一夜を過ごす。

桜井が夜中に、

信三さん、ちょっと外出ませんか?

と誘ってくる。桜井は一応男だ。そんな変なことはないはずだ。。

信三さん。今の大都建材、どう思いますか?このままでいいと思いますか?
僕は、地域No1なんて言ってるうちはだめだと思うんです。日本No1にならなきゃだめだと思うんですよ。

確かにそうだ。
地域で1番といっても、全国で見たら何十番目かわからん。確かに住宅着工軒数が多い地域だけど、そういったって関東というエリアと比べたら桁が違う。
企業として10年20年、50年後を考えたときこの中途半端な位置は致命傷になりかねないだろう。
高卒の工場作業員だけど、そのくらいのことはわかる。数字を見なくてもそのくらいのことは匂いで感じる。

じゃあ桜井君。あんたはどうすればいいと思うのさ?
俺ら個の力なんて大したことねーぞ?

これも当然の話だ。20代前半のあんちゃんたちが束になってかかったところで政治はできない。
名だたる大企業の経営者たちと対等に渡り合えるもんでもない。

そうなんですよ。だから信三さんなんです。
信三さん中心になって社内に若手のグループ作って、旗振りましょうよ。日本一目指すぞって。
営業部や生産部っていう部署単位ではやれることに限りがありますけど、若い様々な部署のやつらが集まって自分たちのできることを集めて話し合っていいものを作っていけば今までにないものが生み出せるんじゃないですか?

言ってることはよくわかる。よくわかるが、20歳の自分が旗振り役とはまた面白いことを言うもんだ。

信三さん、自分をわかってないですよ。
今ここにきてる人たち、今回、僕は直接誘ってないっすからね?
信三さんに来てねって言ったらこの人たちがどうやって行こうか考えて、信三さんを連れてきたんですよ?
すでにできてるんですよグループが。

自分にそんな魅力やカリスマがあるとは思えないが、言われてみれば確かにそうだ。
ダンスにしたって別に私がいなくてもできたはずだ。ソフト大会だって大卒の同期だけで集まって飲んでればいいのにわざわざ私を連れに来る。
どうやら自分はそういう立場のようだ。

何ができるかわからんが、若いもんの連絡組織は作ろうか。
といっても普段は飲み会みたいなもんだろうよ。

それでいいんですよ。そういう場でふっと出たアイディアが決定的な商品を生み出すかもしれないじゃないですか。
いいですね。やりましょう。

若手の会ができたのだった。

スキー

雪国に生まれたくせに冬が大嫌いな私。
できるだけ外に出たくない。家の布団にずっとくるまっていたい人間なのだ。
金曜日の夜。藤沢から電話が。

明日7時に迎えに行くから!あったかい格好と長靴履いててくれな!じゃ!

あいも変わらず趣旨を伝えないやつだ。あれでよくトップ営業が務まるもんだ。
7時に迎えに来られ本社に向かう。
そこには大型バスが止まっている。明らかにどこかに行く体だ。
厚手のジャンパーに長靴財布しか持ってない私だがバスに押し込まれた。
バスガイドさんが今日はNスキー場までお相手させていただきますとのたまった。
スキー場に行くのか?私は着替えすら持ってない。そもそもスキーは高校でスキー学習で一度滑ったきりでほとんど経験がない。
というか冬にわざわざ雪山に行く思考がそもそもわからないのだが。もうバスに乗ってしまっている。

よーし!いくぞー!今日は最高や!パウダースノーや!!!

喜んでるのは野田課長。スポーツ大好きスキー大好き野田課長は有名だ。
松任谷さんにホモ子。井田さん。若手の会メンバー全員勢ぞろいだ。
そしてやはり長谷川さんもいる。
長谷川さんは美人過ぎてみんなが近寄りがたいと思っているのでいつもぽつんとしてる。

私と拉致った真犯人藤沢もスキー大好き。
バスを降りたらさっさとリフトに乗って頂上に行きやがった。ホモ子と井田さんも一緒に頂上へ。
バスを降りて5分で私と長谷川さん、私と同じ部署の池田のおっちゃんの3人になった。
池田さんはスキー上級者だけど残された私と長谷川さんが初心者だと知ると、かいがいしくサポートしてくれた。
そもそも板もウェアも持ってない。
レンタル店で長谷川さんと私のウェアと板を借りてくれて、そして、初心者向けの山林コースへ。
池田さんにしたらもっとスカッと滑りたかったはずだ。
1日中私と長谷川さんの相手をしてくれた。
長谷川さんは本当に初めてのスキーだったらしい。これまたなんでスキー旅行についてきたのだろう。
たぶん松任谷さんが誘ってまたうんッて来たんだろうな。
てか、それならそれで松任谷さん、相手してあげなよ。

翌日、バスが出るのが午後からということで午前はフリータイム。
もうスキーはしたくない私は、一人になってもいいから温泉めぐる!いや、誰も来なくていい!
なんて言いながら近隣にある外湯巡りをすると宣言。

信三ちゃんわかったよ~って、藤沢が付いてくる。ホモ子も行くって言う。
そして、なぜか長谷川さんもついてくる。
長谷川さんは年上なんだけど、いつも男性の三歩後ろを歩くような女性でたまにいることに気づかないくらい。
途中で藤沢とホモ子とはぐれてしまって長谷川さんと二人になった。普段から声も聞いたことがないんだけど、ちょっと話しかけてみた。

長谷川さんって、めちゃくちゃ美人ですけど、彼氏とかいないんですか?

今思えばよくもまあ初めて会話する相手にこんなことを聞けたもんだ。
今なら絶対聞けないだろう。

わ、私、彼氏なんて、、、できたことないです...私のこと見てる人なんていないと思います...
逆に信三さん、こんな彼女、、、欲しいですか???

またも女性を理解していない自分がここにいたことに気づかされた。

社長

三年目。
例によって、大卒の新入社員が私のもとに来る。
いよいよ社長も私をサーバントリーダーだと思い込んでいるようだ。
今年は大卒新人は3人。
廉太郎と石田と中村。
三人とも本社営業部に配属予定だそうだ。
私はいつも通りのやり方で現場の仕事を教える。
2か月目に入ろうかという時、三人が昼休みに私のもとに来た。

信三さん。僕たち、このまま信三さんの下につきたいって、社長に言いに行こうかと思うんです。
いいですよね?

いやまて。わざわざ汚い仕事やりたいって志願するやつがいるかよ。
お前らの人生、現場作業員で終わらす気か?違うだろ

と一喝。しかし、何がよかったのか、本当に社長に言いに行った。
そして認められたとのことで晴れて正式に初めての大卒生産部員が完成した。
井田さんが社長からの辞令をもってきた。

信三君、社長が感心してたよ。あいつはどうやって人の意識を変えてるのか知らないが、廃人みたいな目をしてたやつらがみんな目をキラキラさせて帰ってくるなって。なんかすごい魔法でも使えるの?

そんな魔法が使えるのなら自分にかけたいさ。
先のことを考えるともうやってらんないなって思い始めてるくらいなのに。

そして、4年目。
私は三課から二課へ転属。
会社で一番難しい機械を使っていた係長が目を悪くして操作できなくなったそうだ。
また、新しい生産ラインを作るために新しい機械の導入も目指していて機械が得意な人間をその場所に入れたいということで私に白羽の矢が当たった。
もれなく一緒に廉太郎と石田、中村も二課に移動になった。
二課はもともとは一課のおまけの部材を作る部署で仕事量も小さく規模も小さい課だったが最近は二課の仕事量が爆増し一課と三課の旧工場2つを丸々使っても足りないほどの規模になっていた。
旧工場をそのまま使うため、二課は新工場から出て行かなければいけなくなった。
距離にして1㎞程だが古い建物のため、環境としては最悪。
おまけに木を削るのでおが屑が膨大に出る。
新工場にはとんでもない大型の集塵機が付いているので、木くずなど気にもならないのだが旧工場には備え付けの集塵機設備などない。
各機械に小さな集塵機をつける必要があるが、全く吸わないし毎日木くずを処分しないといけない。
そんな仕事を1年もしているとみんな肺か目をやられる。なるほど。そういうことか。
環境を改善しないと命が持たないと、堀田部長に掛け合おうとした。そのときだった。私に対してのよき理解者で私を良いほうに導いてくれていた堀田部長が突如退職することになったのだ。
何か社長一族に弱みを握られて、会社にいられなくなったそうだ。

信三。本当にスマン。道半ばで俺は引くことになった。
俺がかわいがっていたお前が心配だ。社長・会長に目をつけられてるかもしれん。ちゃんと考えろよ。

と。
次の日、上奏する相手を失った私は総務課に相談したところ社長に直接談判するしかないだろうといわれた。
井田さんに社長のスケジュールを確認。

明日の朝なら多分話を聞くくらいの時間があると思うよ。
書類揃えて朝来てくれれば私から何とか話を聞いてもらえるように取り計らうよ。

こういう時に若手の会グループを作ってよかったと感じるもんだ。
井田さん自身も元々は何の接点もないのに、こうやって気軽に相談できる。会があったからこそだろう。

翌朝設備整備の見積もりや各機械の見積もりをまとめて社長室へ。
段取りしてくれた井田さんのおかげで話は聞いてもらえる状態になっていた。

信三君。わかった。どんな状況でどんな状態になってて何が必要なのかもわかった。よくここまで書類をまとめたね。
けどね。これはだめだ。わが社は、つい3年前に新社屋を建てた。そうか。君が入社した時にはちょうど新社屋に引っ越しだったんだな。
でね。だから、いっぱい借金してお金がないんだ。もうちょっと我慢してくれないかな。

社長の言い分も理解はできた。
しかし、こちらは命がかかってるんだ。
水道の水はさびで赤く、トイレは水が流れない。
集塵機が全く吸ってくれないから一日中粉が待ってる。実際目をやられてる人が出てきてる。
これで改善できないのなら死んでくれといわれているようなもんだとかんじだ。

社長わかりました。
それじゃ私、この環境では生きていけませんので辞めます。
こんな環境でどうもならないっすよ。

とうとう言ってしまったのだ。会社のトップに直接辞職を申し出てしまったのだ。
しかし、先般井田さんが言ってた通り、信三がどういう人間か社長も知っているらしく

信三君。ちょっと待ってくれ。わかった。言ってることは分かった。飲み込むよ。
ただ、今日、明日すぐにできることじゃない。少し様子見させてくれないか。
半年。半年くれ。その間に環境改善に動くから。少し見てくれないか。

トップの社長にそう言われたらいやといえないのがサラリーマン。ここは飲み込んで我慢することにした。

逃避行

5年目。
若手の会は新入社員をどんどん取り込みながら一大勢力になっている。
しかし、組合のような活動はしない。
より良い方向に、モアベターに進むように仕事のやり方や、他部署との情報交換などが主だ。
毎週末仕事帰りに飲みに行くのが楽しみってだけでもあるのだが。

久々に、藤沢と二人で飯を食いに行く機会があった。

なあ信三。ホモ子のことどう思う?

あいも変わらずぶしつけな奴だ。
あの夜以降、ホモ子を過剰に意識してしまっている自分がいたのだが、だれにも言ってない。
見ていて明らかにわかる態度もあったので、いつかは一緒になるんじゃないかと思っていた。
そんな思いがある中で、一番の親友である藤沢のこの言葉だ。

まあ、彼氏はいないらしいからね。いいんじゃない?

天邪鬼な私はこうしか言えなかったのだ。
その一週間後、ホモ子からTEL。

信三さん、藤沢さんからなんか聞いてる?

えっと、ホモ子のことか?まあ・・・ちょっとばっかり聞いてるよ~
なんか言われたか?

うん・・・付き合ってって言われた…どうしようね?

女性の反応など全く分からない私は、

嫌いじゃないんなら付き合ったらいいんじゃないの?藤沢さん、悪い人じゃないしさ~

本当は、俺と付き合えよくらい言いたいのに口からはこんなことが出てくる。

そっか・・・わかった!

あのときの『わかった』は、今になってやっと理解ができるようになった気がする。

信三さん、今日暇ですか?もしよかったらご飯いきません?

誘ってきたのは井田さん。
井田さんはホモ子と仲良くて、いっつもセットで来てた。
このタイミングだから。多分ホモ子からいろんな事聞いてんだろうな。
とりあえず迎えに行く。

何食べたい?好きなモノ言ってくれていいよ~

信三さんがいつも食べてるお店とかがいいな。

いつもって言われると、暇があれば町のカレー屋さんでカレー食ってるが。。。そんなんでいいんだろうか。
カレー屋さんでカレーを食べて井田さんの家に向かう。

信三さん、もうちょっとお話してたい。どこか連れてってくれない?

ああぁそっか。わかった。じゃあ海の見える港でも行こうか

ねえ信三さん、トモちゃん、藤沢さんと付き合うことになったんだって。聞いてるでしょ?
信三さん、トモちゃんのこと好きなんじゃないかなと思ってたのね。けど、たぶん信三さん藤沢さんのこと応援してたみたいだし、トモちゃんもたぶん信三さんのこと好きだったと思ってたの。
けど、トモちゃんと藤沢さんがくっついちゃった。信三さん大丈夫かなぁって思って、今日誘ったの。

全部見透かされてたみたいだ。

井田さん。でもさ。
一番の親友がアタックしたいって言われちゃったら、応援するしかないでしょ。いいんだよこれで。
結局付き合うことになったみたいだし。応援してやろうよ。

うん。そうだね。信三さん。できればトモちゃんと藤沢さんに釣り合うように、私、信三さんの彼女になりたいな。
そうしたら2組でデートできるでしょ?

あわわ。井田さん。まさか井田さんにそんなこと言われるなんて思ってもみなかったから、ちょっと今混乱してる。
すぐに返事するのも失礼だしね。だって、井田さん俺の気持ちわかってたんでしょ。すぐに切り替えできるもんでもないしさ。
けど、必ず返事する。その間は、今まで通り、いや、ちょっとだけ前に進んでデート重ねようか。井田さんのことが好きになったとき、返事したいからさ。

こんなことしか言えなかった自分がいた。

社長への直訴から半年。
彼女になった井田さんに連絡。

明日社長のスケジュールってどうなってるかな?
前に相談してから半年。そろそろ何か結論を出してもらいたいんだよね。

明日の午後なら1時間ほど会社にいるみたいだよ。抑えておこうか?

ごめんね。頼むよ。

もしかしたら明日がなにかのXデーになるかもしれないね。

翌日。社長室

社長、半年前にお話しさせていただいた二課工場の環境整備の件、どうでしょうか?

あぁあの件か...
ほら、今新しいラインを作るのに機械の選定してるでしょ?たしか君もそのプロジェクトメンバーだよね?
わかるでしょ?またお金がかかるんだよね。環境整備にお金使ってらんないよ。

社長、従業員の命をなんと心得ますか?
今の二課工場はまさに命を削りながら仕事をしている環境です。
私も現在慢性鼻炎になっていて、医者に見せると通年花粉症みたいな状態だとのことでした。
どうしますか?私はこのままの環境なのなら働けません。

そうかぁ。わかった。これ以上引き留めるようなことはしないでおくよ。

いよいよ社長がケツ捲った。

信三さん、どういうことですか?

N営業所の桜井から電話。

いやぁね。
あの半年前に直訴した環境改善の件でね。
社長が半年後までに何か結論付けるといっててね。半年経過したし、さてどうしますか?
って聞きに行ったら、何もしない結論だと。
そういわれちゃうとね。俺も何もしないのなら働けないからやめると前から言ってたからね。退職届を出すことにしたよ。

だめっすよ。
そんなんなら僕も退職届出しますわ。許せませんわこんな会社!

バカヤロー!早まるなとたしなめたが、退職届を出している人間に出すなと止められてもそりゃ説得力もないわけで。
本当に桜井は退職届を出しやがった。

信三ちゃん。退職届出したんだって?
なんとかならんの?

と、松岡。

あ、あの。本当に辞められるんですか?
なんでですか?

と、長谷川さん。あいも変わらず美しい。

信三。なんで言ってくれないの?どうして相談してくれないの?

藤沢が泣きながら電話してきた。

藤沢さん。俺だって、みんなと楽しくやっていきたいっすよ。
けど、あんな環境で働いてたら命がいくつあっても足りません。
改善する気がないといわれた以上、自分から離れるしかないっすよ。ほんと。1か月ほどあそこで働いてみてほしいっすよ。

退職日当日。

信三さん。梶沢所長が及びです。営業部事務所においでください

最後の長谷川さんの声を聴けた。透き通るような声だなぁ

所長、今日本社来ておられたんですね。ちょうどよかったです。
僕、今日で退職するんですよ。今までお世話になりました。今後とも藤沢のこと、よろしくお願いいたします。

いや、信三ちゃん。その件なんだけどね。
さっき社長に掛け合ってきたんだ。
もし、信三ちゃんがOKなのなら、このままK営業所にいかないか?
社長はOK出してくれたんだ。
営業部に転属して一緒に頑張らんか?
肩書は、藤沢と同じ係長でというのも話してあるんだ。どうだ?

所長。本当にありがとうございます。
好待遇条件での引き抜きですよね。ほんとうれしいです。
それが半年前なら、たぶん二つ返事でOK出して行ってたと思います。
いま、ここに至ってそのお話を受けて会社に残る決断をしてしまうと、今までの僕が、僕じゃなくなります。
本当にうれしいんですが、申し訳ございません。堪忍してください。

だよな。。。そういうよな。そういうやつだからこうやってみんな引っ張ろうとするんだが。そりゃそうだよな。
ただな。一応君も知ってると思うけど、君が退職することで、桜井、松岡、あと九重に廉太郎、この子らも退職するんだ。
正直会社としてもかなりの痛手らしい。
お前それでも辞めるか?

スイマセン。自分が退職する意思は変わりません。ただ、今日最後の仕事として、あいつらの退職については説得して残留するよう話してきます。

一緒に辞めようとするやつらの引き留めに今日で退職するやつが動くというのもおかしな話だ。

桜井さん。あんた、俺が辞めるからって一緒に辞める必要ないだろ。
あんたは残って、この会社の日本一にしなきゃ。だろ?

違いますよ。信三さんや若い仲間と一緒にやらなきゃ意味ないんすよ。
あんたのいないこの会社に何がありますか?
僕にはないですね。一緒に辞めますよ。

桜井さん。一緒に辞めたって次どうするのさ?
俺みたいな低学歴の金もない人間についていってもいいことなんてないからな?なんもしてやれんぞ?

そんなことまったく求めてていないですよ。
信三さんをひきとめもしないで辞めさせる会社が信用できなくなっただけです。
だから、大都建材にはもういれないってだけですよ。僕も絶対一緒にやめますからね。

結局誰一人説得できぬまま、同じ日に私を含めて5人が退職することになった。

その後、大都建材は絵業部長の藤沢を中心に営業が頑張って、建材メーカーとしては日本一のメーカーにまで上り詰めた。
生産部長はまさかの梶沢所長が、生産部長に就任。
私の遺志を継いで工場の環境改善に一番に着手したとのこと。

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